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渥美二郎・増位山太志郎コンサート 「名歌手よ、名曲よ今夜もありがとう」

20140728増位山太志郎、渥美清コンサート画像

今までありそうでなかった顔合わせによるジョイント・コンサート

7月25日、猛暑に見舞われた東京・千代田区の日比谷公会堂で、渥美二郎・増位山太志郎という、今までありそうでなかった顔合わせによるジョイント・コンサートが開かれた。
客層は、60代半ばから上がほとんどだが、暑さに負けることなく各地から訪れたファンで、昼夜2公演とも1階席はほぼ満席の盛況(客席数2074)。渥美・増位山の人気と、2人のステージへの期待の高さを窺わせた。

渥美「”子供の頃から”増位山関の大ファンだったんです」

20140728増位山太志郎コンサート画像

コンサートは増位山の1977年のヒット曲「そんな女のひとりごと」からスタート。1コーラスめの途中で渥美も登場、2人で歌って渥美の代表曲の一つ「釜山港へ帰れ」へ。共によく知られた曲で登場していながら、ヒット曲は他にもまだある。歌謡曲全盛時代のスター歌手の余裕が漂う。

ジョイント・コンサートのきっかけは?

聞けば、増位山に声を掛けたのは渥美の方だったそう。ほぼ同じ時代に数々のヒットを飛ばした2人。当時は力士として活躍する傍らで歌っていた増位山だが、2013年に相撲協会を定年退職し、現在は歌一本。昨年の同じ日に同じ会場で五月みどりとのジョイント・コンサートを開いていた渥美の、歌手仲間との共演でファンを楽しませようとするアンテナが、今年は増位山を捉えたということだろう。
しかも渥美は相撲好きで、増位山のファンでもあった。実際には4歳しか違わないが「”子供の頃から”増位山関の大ファンだったんです」と話して客席を沸かせ、増位山を苦笑させた。さらに「今日は歌の土俵で胸を借りるつもりで歌います」と挨拶、さすが今年デビュー38年のベテラン、トークも達者だ。
司会の青空キュートが登場、「外は暑いので、歌で涼しい気分を」と紹介して、ステージはハワイアンのコーナーへ。「泣かないで」「倖せはここに」など往年の名曲が続き、さらにトークを絡めながら「おまえに」「二人の世界」など、客席を埋めたファンには懐かしいヒット曲が次々に披露される。

ショー・ビジネスの第一線に生きる人の意識

20140728渥美清コンサート画像

増位山は大きな身体に似合わぬ繊細な歌声で、歌謡コーラス・グループ隆盛時代の名曲との相性は抜群。ごつい体型からは意外な表現で、歌の心を細やかに伝えて観客を魅了する。
一方の渥美は、言うまでもない安定感。「あなたのブルース」「黒い花びら」などオリジナル歌手の印象が強い楽曲(前者は矢吹健、後者は水原弘)を歌っても、原曲の味わいはそのままに、渥美節を効かせて独自の世界を展開。

難病を克服、歌に賭ける強い想いと誠意を実感

過去にはスキルス性胃がんという難病を克服、そのために胃と脾臓を全摘出していながら、声量の豊かさにその影響は微塵も見られない。ステージを観る度に、歌に賭ける強い想いと誠意を実感させられるが、それはこの夏の酷暑にも負けることがない。流行歌の命である歌詞を大切にする姿勢も変わることなく、どんな歌をうたっても言葉が明瞭で、これにはプロでも見習うべきところが多い。
渥美がギターを持って「恋あざみ」を歌っていると、一旦下がっていた増位山が登場、渥美のギター伴奏で歌うという、他ではなかなか観られないシーンが披露される。序盤は緊張からか、やや抑え気味に感じられた増位山の歌声も、この辺りからは十分に魅力を発揮しはじめて「君恋し」などは、なかなかの味わいを感じさせた。

20140728増位山太志郎、渥美清コンサート画像

元演歌師の本領発揮。リクエストに次々に応える

さて、ギターを手にしていることから、コンサートは渥美のリクエスト・コーナーへ。元が演歌師だけに、客の要望に次々に応えるのはお手の物。あちこちから上がるリクエストをタイミングよく捉えて「湯の町エレジー」「逢いたかったぜ」「街のサンドイッチマン」「ふるさとの灯台」を(夜の部。昼の部では「哀愁列車」や「蟹工船」ほか)、それぞれの曲にまつわるエピソードを披露しながら歌う。「ふるさとの灯台」を歌った田端義夫は昨年の春、惜しまれながら世を去ったが、渥美の歌には”バタヤン”の愛称で親しまれた田端の、唯一無二の個性と清廉な印象が受け継がれており、渥美の先達に対する敬意の深さが感じられた。
また同曲が、同じく演歌師だった父親の十八番だったエピソードなども挟まれて、続く歌は「情熱のルンバ」。間奏では華麗なピアノの腕前も披露する大サービスの渥美。プロ歌手だから上手く歌って当たり前、プラス・アルファでいかに観客を喜ばせるかという、ショー・ビジネスの第一線に生きる人の意識が、指先からも伝わってきた。

五月みどりがサプライズ出演

20140728渥美清、五月みどりコンサート画像

その後、休憩を挟んでコンサートは2部へ。渥美・増位山ともにステージを下りて客席を回りながら歌うなど、ファンと積極的にふれ合い、親しみやすい言葉で話すが、そこには節度が保たれて、馴れ馴れしくなったり、客を変にいじったりするようなことがない。流行歌の黄金期から連綿と引き継がれてきた、プロ歌手の矜持を見た想いがして大変好ましかった。
そんな印象は、増位山が「そんな夕子にほれました」「男の背中」などを、当時の思い出話を交えながら語るコーナーに移っても変わらない。「『そんな女のひとりごと』が売れていた頃、ゲイバーでは『そんなオカマのひとりごと』という替え歌が流行っていたそうです」などと話して観客を笑わせるが、笑いを取ることを優先していないので、話が下品にならない。初めてデモ・テープを聴いた時に思わず涙が流れたと話し、昨年発売された「夕子のお店」を歌った時には、増位山本人の心情が伝わって、より深い聴き応えがあった。
増位山が、9月17日発売の新曲「冬子のブルース」をいち早く披露、中村美律子との”共作”で話題を蒔いた「夢の花 咲かそう」で観客に希望のメッセージを贈って下がると、続いては「霧の港町」に始まる渥美のコーナー。「夢追い酒」ではファンとの大合唱となり、そこに流れた空気の心地よさには、名曲の力、歌の力を改めて感じさせられるものがあった。
そして、コーナーの終わりにはサプライズが。冒頭で触れたように昨年の同日、同会場で渥美とジョイント公演を行っていた五月みどりが登場、一昨年の秋に発売された渥美とのデュエット曲「東京ナイト」を披露した。長い芸歴(今年レコード・デビュー56年目)を持つ五月だが、それが意外に感じられる可愛らしさで、会場に華やかさと和やかさを届けた。

増位山「ぜひ一緒に全国ツアーを」

五月の出演や、増位山とのジョイントも、鏡 五郎から山本さと子まで多くの歌手の賛同を得て毎年開かれているチャリティー・コンサート『人仁の会』(’95年、阪神淡路大震災の被災者支援を目的に、渥美が主宰。今年からは東日本大震災被災者支援を目的とし、6月25日には五月も出演して第20回を開催、これまでの義援金の総額は5千万円を超えた)を中心になって行うなどしてきた渥美の人徳の為せる業。CDの売り上げが激減し、ヒット曲の生まれにくい世の中になったが、歌の持つ力の大きさは変わっていない。その活躍に、ますます期待したい気持ちになった。
「増位山さんは、あまりしゃべらないと聞いていたし、僕も皆さんご存知のように口下手ですから、これは暗いステージになるんじゃないかなぁ…なんて心配していたんですが(笑)、お蔭様でとても楽しいコンサートになりました」と渥美が話せば、増位山も「私も楽しかったです。ぜひ一緒に全国ツアーを」と要望。見事に気の合ったところで「夜霧よ今夜もありがとう」を歌ってのお開きとなったが、2人の感想が客席を埋めたファンの想いと一致していたことは、会場に響いた拍手の熱さが証明していた。
公会堂を後にすると、夜霧は出ていなかったが、「名歌手よ今夜もありがとう」「名曲よ今夜もありがとう」、そう言いたいような気持にさせられた帰り道だった。

渥美二郎・増位山太志郎コンサート
2014年7月25日 14時/18時 東京・日比谷公会堂
【曲目リスト】1.そんな女のひとりごと 2.釜山港へ帰れ 3.泣かないで 4.倖せはここに 5.俺はお前に弱いんだ 6.おまえに 7.二人の世界 8.知りすぎたのね 9.恋の町札幌 10.夜の銀狐 11.あなたのブルース 12.黒い花びら 13.恋あざみ 14.君恋し 〜渥美二郎リクエスト・コーナー〜 15.情熱のルンバ 16.そんな夕子にほれました 17.そんな女のひとりごと 18.男の背中 19.冬子のブルース 20.夕子のお店 21.夢の花 咲かそう 22.霧の港町 23.哀愁 24.慟哭のエレジー 25.夢追い酒 26.忘れてほしい 27.他人酒 28.釜山港へ帰れ 29.東京ナイト 30.夜霧よ今夜もありがとう

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